Web写真は費用をかけるべき!1枚が与える写真の力とは?
Webサイトに「写真」は必要不可欠な存在です。コーポレートサイトでもECサイトでもブログでも、写真はほぼ必ずと言っていいほど使用され、またWebサイトを訪れた人の眼には、最初に写真が視覚情報として飛び込みます。つまりWebサイトの第一印象は、写真の質が大きなウェイトを占めるわけです。
しかしそのくらい重要なパーツなのに、近年写真が軽視されているように感じられるのは、写真を生業にしている側からの過剰な反応でしょうか…。スマホの普及とスマホカメラの性能の飛躍、そして至れり尽くせりのカメラ新機能の数々などが要因として挙げられますが、事実「こんなに撮れるなら、プロいらないじゃん!」と頭によぎったことがある方は多いと思います。このコラムでは、そんな声を全力で否定してみたいと思います(笑)。
写真を効果的に採り入れたメディア3選
最初に「写真1枚の力」というものを再認識していきましょう。近年、Webの世界を筆頭に「広告や記事は動画で」という流れが強まっています。たしかにここまで通信環境がよいのであれば、動画でセールスポイントを詰め込むのが最適かもしれません。5Gの時代になると、動画主流の潮流はさらに加速するはずです。
しかし1コマが瞬間瞬間で通り過ぎていく動画に対し、静止画である写真は一瞬のピークを切り取っているため、延々と最大の見せ場を提示できます。動画に慣れた目に静止画が飛び込んでくると、そのインパクトに心が掴まれるもの。
これを逆手に取ったものに「ボラギノール」のCM、「明治安田生命」の企業CM、「ブラタモリ」のエンディングなどがあります。これらは動画のフォーマットの中であえてピークの高い静止画を使うことで、効果的に世界観を伝えています。
ボラギノールはコミカルな瞬間、明治安田生命は心温まる瞬間、ブラタモリはロケ中の楽しげな瞬間。それぞれ切り取っているピークは異なりますが、あ、いい演出だな、と思わせるパワーがあると思います。
当コラムで各社使用している写真を掲載するわけにはいきませんが、どれも人気のあるCM/番組なのでうっすらとどのような写真が使われているかわかると思います。3種とも性格が大きく異なるところがおもしろいですが、撮影方法も異なる点に注目したいです。
ボラギノールは商品意図を的確に狙いつつ、開放的な雰囲気を前面に打ち出しています。かなり決め込んでいるのではないでしょうか。明治安田生命は投稿を募っていることからもわかりますが、一般の方の家族写真を中心に構成しています。ただ、確実に写真愛好家が撮っているとおぼしき高いレベル。一瞬の表情を切り取った秀作揃いです。ブラタモリはロケに同行したプロが撮影している、いわゆる記録写真ですね。目線ありの写真も含まれていますが、ロケの合間にササッと撮るしかないと思われます。それでいて、ああ、楽しそうなロケだったのだな、とすべての人に感じさせるわけですから、素晴らしい技術・見せ方だと感じます。このようにアプローチは異なりますが、1枚の写真の力で勝負するというコンセプトは共通しています。
仮定・想像の域を出ませんが、これらの成功例は「写真をこう使うと効果があるはず」とわかっている、リテラシーの高い担当者がいたからこそ可能になったことでしょう。要は使いたい写真の発注とセレクト、アウトプット方法の幸せな融合です。
仮にボラギノールのCMがもっとふんだんに写真の枚数を使い、パラパラマンガのようになっていたら、インパクトは逆に薄れていたかもしれませんよね。明治安田生命のCMも、投稿写真ではなくそれっぽい写真を作り込むだけでやっていたら、ここまで注目されなかったでしょうし、家族の温かさを表現することはできなかったはずです。代わりに、投稿をしてもらうための仕掛けなど、注目度を高めるための活動は別途大変だったと想像できますが。
つまりコンセプトを明確にして、そこからぶれないアウトプット方法を貫けば、写真も動画に負けないインパクトを残すことができるのです。写真の内容とアウトプット方法の最適解を目指す、ということ。これが重要視されれば、Webサイトの大きな特徴にもなりますし、写真を生業としている人にとって取り組み甲斐のあるプロジェクトが増えてくると思います。そう、写真の序列が上がってくるのです。僕自身が写真を撮る身だから、写真はプロに任せて予算も取ろう、と仕向けているのではないです(笑)。
結婚式の撮影に見る、プロに頼るべき具体的な事例
「家族」や「ファミリー」という単語がたくさん出ているので、Webサイト関係の話からは脱線しますが、「結婚式の写真」についてだけは誤解なきよう触れておきたいと思います。また、プロに任せることの意味を象徴しているジャンルでもあります。カメラが進化し、多くの人がセミプロフォトグラファーのような活動をしているいま、世の中には雰囲気のいい写真があふれかえっています。
カメラは進化し、人の瞳に延々とピントを合わせ続けてくれる「瞳AF」なども標準的に搭載されるようになってきていますし、暗所でもフラッシュいらずの高感度に強いカメラなどもあります。最新機能+高価なレンズ・カメラで撮影をすれば、高水準な写真を撮りやすくなっていますが、経験なくして対応できないような場もあるのです。その代表格が「結婚式」。逆に写真をかじっていると依頼される案件の代表格でもある点も曲者です。
きっと、挙式される方は、雰囲気よく写真を撮る知人にぜひ良き思い出を残して欲しい、と考えて頼むのでしょう。そして頼まれた方は、何とか期待に応えたいと考え引き受けるのでしょう。しかし、その双方のこだわりこそが失敗を生むのです。
式場は天気・時間帯でどのような光になるのか、どんな動線なのか、そして儀式・イベントはどのくらいの時間の長さで、どのような体の向きで行うのか。そんな瞬時の判断を、ぶっつけ本番で考えるのは至難の業ですよね。これが頭に入っているのがプロのウェディングフォトグラファーなのです。プロに依頼するにはそれ相応の理由があるということ。そう、プロに頼るべきところは頼りましょう!
意図した写真を得るためにはルールなどない!
閑話休題。結婚式の話は一見すると脱線ですが、この依頼主と撮影者の関係が両輪としてバランス良く回ること、言い換えれば信頼関係とスキルのバランスこそが核心かもしれません。僕もいくつかのWebサイトの撮影に携わっています。農業、移住、郷土料理、民泊など、さまざまな撮影をここ数年で行ってきましたが、その中のひとつ、岐阜県山県市の魅力を発信するWebサイト「YAMAGATA BASE」では、かなり写真を重要視していただき、とても撮り手として嬉しく思っていますし、クセは強いですが、依頼主と撮影者の関係は機能していると感じます。
「YAMAGATA BASE」の撮影は、取材記事・イベント記事の撮影だけに留まらず、風景の撮影やモデルを稼働させての撮影も定期的に行っている点が大きな特徴です。おもしろいのは、山県市の観光資源に行くのではなく、自由にレンタカーで移動して「雰囲気のいい写真を撮って」とだけの指示を受けることが多々あるというところ。
最初はどうすればいいかわからず「?」が頭に浮かんでいました。だって、朝現地入りをして、車を与えられて、放り出されるのですから(笑)。でも、「何気ない風景の中にある、山県市の美しい部分を自由に切り取ってほしい」という趣旨を聞き、それ以降は素直に心が動くまま撮ることに徹するようになりました。
景勝地を案内するのであれば、地元で活動しているフォトグラファーこそが適任。季節・時間帯にベストは風景写真を撮ることができますから、門外漢の出る幕はありませんよね。そうではなく、外から来たからこそわかる、何気ない魅力的風景を撮って欲しいと言われているのです。このコンセプトがあるから、県外の僕が起用され、贅沢な時間の使い方が許されていたということですね。
正直、1日中撮影に臨んだものの、あまりよい写真が提示できなかったのか、Webサイトが更新されずじまいだったこともあります。しかし納品後、すぐに「これいいですね!」と返事が来て、トップ画面がすぐに更新されたこともあります。このアバウトさは異例かもしれませんし、人によってはやりづらいかもしれません。でも僕は、自由、やりがい、責任感があってとても楽しんでいます。
「YAMAGATA BASE」のトップページはかなりの大きさの画像がドンと表示されます。まさに写真1枚の力です。トップ画像はスライドショー式になっており、10カットのメイン画像+記事へのリンクとなっています。つまり、良い写真ベスト10みたいなものですね。手前味噌ですが、僕が撮る写真は視点が変などのクセがあると思っていますし、よく「それをそんなに撮りますか?」というような変な固執もあります。そのような撮り手の視点が数年に渡って積み重なると、一種の世界観が形作られるような気もしています。同じ撮り手、同じ制作者(セレクター)。この2つのフィルターがあることが重要なのかもしれません。
そして、「YAMAGATA BASE」には「PHOTO」というページもあり、写真1枚に短文のコラム、というパートもあり、やはり写真を大切にしていることが分かります。栗、野草、古めかしい自動販売機、バス。そんなどこか懐かしい写真がここを飾ります。「PHOTO」の写真と一部執筆も担当していますが、最初からコラム用に撮影するわけではなく、自由に撮った写真と後から向き合い、なぜこの写真を撮ったのかということを自問自答していくうちに、自然とコラムテーマが浮き上がってくるということがほとんどです。これもまた、とても贅沢な作業工程であると同時に、Webサイトとしっかり向き合い軸を通すことにも繋がっているのではないでしょうか。あ、フィルムカメラを時々使うこともありますが、それが許される、求められるのも、とても貴重です。
Web制作に関わる人に写真に対する考え方を問いたい
デジタルカメラ登場以前、フィルムカメラしか存在しなかった時代は、写真=プロの技術というイメージが強かったと思います。画像の記録方法はデジタルではなくフィルムのため、現像をしなければ写真として見ることができません。きっと、クライアントは「お任せする」という気持ちになる必要があったはずです。それが今は少し薄らいでいます。
そして、予算の投入先は専門性が高く、クライアントは手出しができない動画へとシフトしつつあります。しかし、ここまでで触れたように写真1枚にこだわることで世界観が構築されていくのです。なにもイメージカットだけの話ではありません。商品カットを同じトーンで仕上げていくこと、必ず人物写真はスタジオ撮影をすること、などで対外的にアピールできるポイントを作り上げることも可能かもしれません。
スマホ時代により、写真は人類史上最も身近な位置にやって来ました。だからといって写真を軽視していいわけではないのです。ぜひ、一度好きなWebサイトの写真だけをじっくり眺めてみてください。きっと意図のある写真、雰囲気のいい写真が踊っていることでしょう。
今回から僕は写真周辺のコラムを担当していくことになりました。まだまだ次回テーマなどは決めておりませんが、根底にあるのは常に「写真の力」というものになってくるはずです。どのような方がコラムを読んでくださるのでしょうか。恐らくWeb制作に近い位置にいる方が多いのではと想像しています。中には直接的にフォトグラファーに依頼をしたり、どのような写真を使うかを選ぶ立場の方がお読みになるかもしれません。そのような方に、フォトグラファーへの依頼や写真編集・使い方がベストに近くなるような内容になればいいなと思っています。
この記事を書いた人
鈴木文彦
2007年にフィルムカメラ専門誌「snap!」を創刊。以降、趣味の写真に関する仕事に従事する。刊行物に「中判カメラの教科書」「フィルムカメラの撮り方BOOK」(玄光社)など。現在は「FILM CAMERA LIFE」「レンズの時間」編集長。
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