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大口径レンズならではのボケ味が魅力的な写真と、ボケの活かし方

大口径レンズならではのボケ味が魅力的な写真と、ボケの活かし方

ひと目を引くドラマチックな写真、心に響くエモーショナルな写真。そんな写真を撮りたい、そんな写真をWebサイトで使いたい、と多くの人は思っているはずです。ひと目見ていいな、と思える写真にはいくつかの特徴がありますが、特に重要なものとして、効果的に「ボケ」が使われていることが多いです。

主役を引き立たせ、背景をぼかすことでスッキリとした見栄えにできるボケ。ボケはどのようにして作るのか、どのような効果・注意点があるのかを、今回は取り上げていきたいと思います。ボケの豊かさはレンズのスペックが物を言う数字の世界。そしてスマホではどうあがいても手に入らないもの。ボケを味方につけることで写真は大きく変わります。

ボケの基礎知識

被写界深度とは?

ボケはピントが合っている部分に対して、ぼやけている部分を指します。海外でも「Bokeh」と表記し、日本語がそのまま専門用語として使われており、日本がいかにカメラ大国かがわかりますよね。専門用語になりますが、ピントが合っている部分の前後の「ピントが合っているように見える部分」を「被写界深度」と呼び、被写界深度は「浅い(ボケが豊か)」「深い(ボケが少ない)」と呼びます。まず、ボケが豊かな写真、ボケが少ない写真を見て、ボケというものを意識してみましょう。

ボケが少ない=被写界深度が深い写真
ボケが少ない=被写界深度が深い写真。
レンズの絞り値をF16で撮影をしています。
主役の背景までピントがあっているように見えます。
ボケが豊か=被写界深度が浅い写真
ボケが豊か=被写界深度が浅い写真。
レンズの絞り値をF1.4で撮影しています。
主役だけにピントが合い、背景はとろけるような描写となっています。

どちらが印象的に見えるでしょうか。おそらく下のボケが豊かな写真だと思います。上の被写界深度が深い写真は緻密に描写していますが、スマホで撮影した写真と大きな違いは感じないかもしれません。
スマホで撮影をした場合、疑似的にボケを作るポートレートモードなどを使用しない限り、背景をボケさせた写真は撮れません。それは同じ絞り値であればセンサーサイズが大きいほど被写界深度が浅くなるためで、スマホの小さなセンサーではボケは作れないのです。このような要因もあるため、ボケが豊かな写真はちょっと特別に見えるのかもしれませんね。

被写界深度をコントロールする絞り値(F値)

被写界深度と絞り値(F値)

被写界深度を浅くしたり深くしたりするのは、レンズの絞り値(F値)です。上の比較作例ではF16とF1.4。レンズには必ず絞り羽根という、光を取り込む量を調整する部位があります。絞りを開く(この場合はF1.4)と被写界深度は浅くなり、絞りを閉じる(この場合はF16)と被写界深度は深くなります。
絞り全開の状態を「開放F値」と呼び、開放F値はレンズそれぞれスペックが異なります。開放F値が小さければ小さいほど被写界深度は浅くなるのですが、そのような「明るいレンズ」「大口径レンズ」と呼ばれるものは価格が高い傾向です。

F1.4の状態
絞り開放F1.4の状態。
レンズをたくさんの光が通ります。
F16の状態
F16、絞り羽根によって光を取り込む量が少なくなっています。
このような状態で撮影をすると被写界深度は深くなります。

ちなみに、同じレンズのF1.4で撮影をしたとしても、ピントを合わせた被写体までの距離が近ければ近いほど被写界深度は浅くなります。何十メートルも離れた被写体の背景をぼかすことは難しいのです。

F1.4、50cmほどの距離から撮影
F1.4、50cmほどの距離から撮影。
背景は大きくボケています。
F1.4、2mほどの距離から撮影
F1.4、2mほどの距離から撮影。
被写界深度は深くなりました。

レンズの焦点距離による被写界深度の違い

他にも被写界深度を決定する要素はあります。それはレンズの焦点距離です。レンズには焦点距離が短い広角レンズ、自然な視野に近い焦点距離50mm前後の標準レンズ、焦点距離が長い望遠レンズなど、さまざまな種類があります。
たとえば同じ絞り値で撮影をした場合、焦点距離が長くなればなるほど被写界深度は浅くなります。広角になればなるほどボケづらく、望遠になればなるほどボケやすいということです。まず同じ位置から同じ被写体を同じ絞り値でレンズを変えて撮影してみました。ピント位置は手前の椅子です。

焦点距離25mmの広角レンズでF2で撮影
焦点距離25mmの広角レンズでF2で撮影。
広角レンズのため椅子までの距離がありそもそもボケをあまり感じることができません。
焦点距離50mmの標準レンズでF2で撮影
焦点距離50mmの標準レンズでF2で撮影。
椅子が主役だとわかりつつ、背景もボケでいます。
焦点距離135mmの望遠レンズでF2で撮影
焦点距離135mmの望遠レンズでF2で撮影。
とろけるような背景ボケになりました。

椅子の撮影サイズが変わるからわかりづらい!という意見も出そうなので、続いては主役が同じくらいの大きさで写るように撮影場所を前後させながら、広角レンズ・標準レンズ・望遠レンズで撮影してみました。

焦点距離25mmの広角レンズでF2で撮影
焦点距離25mmの広角レンズでF2で撮影。
背景の葉の輪郭は比較的ハッキリとしており、被写界深度は少し深であることがわかります。
焦点距離50mmの標準レンズでF2で撮影
焦点距離50mmの標準レンズでF2で撮影。
明らかに25mmレンズよりも被写界深度は浅くなっています。
焦点距離135mmの望遠レンズでF2で撮影
焦点距離135mmの望遠レンズでF2で撮影。
一目瞭然で被写界深度は浅くボケは豊かです。
背景の葉が迫って見えるのは「圧縮効果」という望遠レンズ特有の特徴です。
被写界深度・浅い 被写界深度・深い
絞り値 小さい 大きい
焦点距離 長い 短い
撮影距離 短い 長い
センサーサイズ 大きい 小さい

これが被写界深度を決定する要素の相関関係です。近年は広角でも開放F値が明るいレンズがたくさん販売されていますが、それらのレンズはたとえばF1.4などであってもボケはさほど豊かではありません。それは焦点距離が短いからです。
逆に200mmなどの望遠レンズであれば、F4程度でも豊かなボケを味わうことができます。ボケを意識したレンズを購入する際には、開放F値と焦点距離を意識するといいでしょう。

ボケを豊かにする=背景処理

豊かなボケを活かせば、多少は背景が頓雑な場所で撮影をしても、それをごまかすことができるという利点があります。印象的な写真に見えると同時に、撮影場所の選択肢を増やすことができるのです。被写界深度が浅くできるレンズは高価ですが、さまざまなメリットがあるのです。

人も車も多い国道沿いで撮影
人も車も多い国道沿いで撮影。
着物が主役だとわかるうえに、背景の雑踏をボケさせることですっきりとした印象の写真に。

Webサイト用の写真でボケをどのくらい使うべき?

ボケは写真を印象的にするため、多くの撮り手はボケが好きなはずです。僕自身、ボケは大好きで気付くと絞りを開いています。人気のある写真家も、露出設定が許される限り、できるだけ開放F値に近いところで撮影するという人もいます。
たしかに作家性重視だったり個人的な写真であれば、開放F値付近を使ったボケいっぱいの写真だらけでもいいですが、Webサイトで使う写真ということになった場合、いくつか注意しなければならない点があります。それは「ボケさせすぎ」です。

たとえば商品写真の場合、被写界深度を浅くしすぎてしまうと、商品ロゴなどがボケてしまったり、商品の全体像を見せられなくなってしまうことがあります。食べ物の写真でも同様で、一部をフィーチャーしすぎて全体でどんな食材が使われているかなどがわからなくなってしまうのです。
撮影をする際は、絞り値・シャッタースピード・ISO感度の3つからなる「露出の相関関係」に注意しなければなりません。撮り手であれば理解していると思いますが、室内の撮影で照明がない場合などは、手ブレと高感度による画質悪化を防ぐために絞りを開けなければならないという事態に。開放絞り付近を使わずとも撮影できるような装備を用意しておくという物理的なことも重要になってきます。

開放絞り付近で料理を撮影
開放絞り付近で料理を撮影。
被写界深度が浅すぎて料理をしっかりと見せることができなくなっている。

もうひとつ被写界深度をシリアスに考えるべきシーンは複数人の人物写真です。フォーカスポイントを合わせた人物はピントばっちりでも、隣にいる人物は被写界深度外でピンボケをしている、というミスはとても多いです。
明るさの調整などは現像時にできるものの、ピンボケの修正はシャープネスを強めてピントが合っているように見せる、くらいしかできません。複数人の人物撮影ではきちんと撮影画像を拡大してピント精度を確認するようにしたいです。
個人的には、どんなに絞りを開いても50mmレンズ使用でF4、そして不自然にならない程度に、なるべく横一線にならんでいただくようにしています。ただ、記念撮影など大人数になった場合はもっと絞り込む必要があります。

被写界深度が浅い集合写真
被写界深度が浅い集合写真の場合は、
なるべく横一線に並んでもらい浅い被写界深度でも全員にピントがくるようにする。

カメラには「絞り込みボタン」というものがあり、設定した絞り値ではどのくらいの被写界深度になるかをプレビューできる機能があります。この機能を併用することで失敗はグッと減るでしょう。ただし、どうしても背景が煩わしい場合は雰囲気が良い写真にはなりづらいです。シンプルな背景を探したり、ヌケがすっきりとしている場所を選ぶなど、ボケが使えない代わりに背景のシンプルさで勝負するなどの工夫が必要。

ボケを重要視した写真を撮る場合の必携レンズ

ボケが綺麗にでるレンズ

ボケが豊かなレンズは撮り手として必ずラインアップしておきたいところです。僕は開放F値が暗めで、便利ではあるもののボケという点では弱いズームレンズをほぼ使いません。これは案外なポイント。おそらくボケよりも画角や利便性を重要視し、ボケすぎることに対して慎重なタイプの人は、きっとズームレンズを手にするはずです。

Web制作担当でフォトグラファーを起用したとき、フォトグラファーの使用レンズがズーム派か単焦点派かで、ボケをどのくらい重要視するタイプかが見極められると思います。ここではボケを重視した場合に所持しておきたい代表的なレンズのスペックを紹介します。

自然な画角と適度なボケの50mmF1.4の標準レンズ

どのマウントにも必ず用意されている50mmF1.4の単焦点標準レンズは、人の眼の視野に近い画角と自然なボケで使いやすいです。何よりもリーズナブルな価格で入手できるのもうれしいところ。寄り引きできるようなシーンであれば、この1本でたいていのものは撮れてしまいます。画角・遠近感ともの自然なのもポイント。

単焦点レンズで撮影
単焦点レンズとしては入手しやすい標準レンズ。
しかしボケの豊かさが作る立体感はズームレンズとは一線を画します。

グッと近づいて撮れるマクロレンズ

マクロレンズは開放F値がF2.8やF3.5など暗めのものがほとんどです。撮影距離が近くなればなるほど被写界深度は浅くなりボケは豊かになるため、マクロレンズで至近距離から撮影するとボケはとても豊かになります。
小さな被写体にグッと近づけるというのは、通常のレンズでは決してできない撮影方法。撮れる写真は明らかに変わるので1本持っておいて損はありません。

また、ブツ撮りにも必ずマクロレンズを使います。ライフサイズで記録できる「等倍マクロ」、ライフサイズの半分の大きさで記録できる「ハーフマクロ」など、撮影倍率はレンズにより異なります。

50mmF3.5のハーフマクロレンズで開放撮影
50mmF3.5のハーフマクロレンズで開放撮影。
マクロレンズは開放からピント面はシャープで、ボケも美しいです。
ブツ撮りだけではなく、常用レンズとしても優秀。

ボケの豊かさは圧倒的!中望遠単焦点レンズ

被写界深度は焦点距離が長くなればなるほど浅くなります。そのため、背景処理をして主役を引き立たせたいポートレートにおいては、85mmF1.4などの大口径単焦点レンズがとても重宝されます。慣れれば85mmの画角は標準レンズの延長くらいの感覚で使え、僕は一時期85mmF1.4がファーストチョイスだった時期もあります。
最近はさらなるボケの豊かさと圧縮効果を得るために、135mmF1.8のスペックのレンズを愛用しています。人の眼とは異なる世界を残すことができ、写真ならではの世界を作れる気がしています。

135mmF1.8の中望遠単焦点レンズで撮影
135mmF1.8の中望遠単焦点レンズで撮影。
前ボケの豊かさ、圧縮効果による独特の遠近感など個性的な表現になっています。

広角+ボケもユニークな描写に

被写界深度の浅さでは太刀打ちできないかもしれませんが、パースペクティブのある広角の描写とボケの合わせ技も個性的です。Webサイトでは少し使いづらい表現かもしれませんが、写真サイズが大きめであれば、スマホで撮影したものとは明らかに異なる広角写真だと気付いてもらえるはずです。

25mmF2の広角単焦点レンズで撮影
25mmF2の広角単焦点レンズで撮影。
背景が広く写っているものの、うっすらとボケているところが特徴的です。

スマホ時代にカメラを使う意味のひとつがボケの存在

構図、光の使い方などをそれに加味することで、より良い写真にはなるはずですが、単純に開放F値が明るいレンズを使うだけでボケは手に入ります。ですから、人によってはボケに頼った撮影を「逃げ」のように感じるかもしれませんが、スペック的にスマホでは出せない、デジカメを敢えて使う最たるものとも言えますね。

また、機材に優劣は付けたくないですが、センサーサイズの大小でボケの豊かさは変わり、ボケを美しく見せる「階調」や「シャープネス」もセンサーサイズに起因します。高い機材を購入したのなら、胸を張ってボケを活かした写真を撮りましょう。次回以降、どこかで「ボケ味」についても取り上げたいと思っています。ボケには美しいボケ、人の心を掴むボケがあるのです。それはとても感覚的。そう、ボケはとても奥が深いのです。


大ヒットフィルター「ブラックミスト」の効果と活用方法

大ヒットフィルター「ブラックミスト」の効果と活用方法

鈴木文彦

この記事を書いた人

鈴木文彦

2007年にフィルムカメラ専門誌「snap!」を創刊。以降、趣味の写真に関する仕事に従事する。刊行物に「中判カメラの教科書」「フィルムカメラの撮り方BOOK」(玄光社)など。現在は「FILM CAMERA LIFE」「レンズの時間」編集長。

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