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Webサイト写真は「雰囲気」「伝える」4つの軸で撮影・撮り方を決める

Webサイト写真は「雰囲気」「伝える」4つの軸で撮影・撮り方を決める

Webサイトで使用する写真は、写真の質・セレクト・使用方法にこだわることで、Webサイトそのもののクオリティーが高まり、効果的な訴求や売り上げアップなどへと繋がっていきます。「雰囲気重視」と「伝えること重視」、「切り抜き」と「カクハン(角版)」、この4つの単語を組み合わせて指示をするのがコツ。その指示がどのような意図を含んでいるかを今回はお話していきます。

Webサイトの担当者であれば、もちろん良いものを作ろうとしているはずで、写真を発注も外部のプロに依頼するようなこともあると思います。そのときの指示が曖昧だと、発注側と撮影側との間にイメージのズレが生じ、せっかくこだわったのに完成形が納得できないという事態となってしまう恐れがあります。齟齬を生まないようにするためは、撮り手にも通じやすい言葉を使うことが大切。今回は大まかな写真依頼の方向性の共通言語を考えていきます。

「雰囲気重視」と「伝えること重視」

Webサイト制作の過程では、写真の使用箇所、使用サイズ、使用の目的などを最初に考えてから写真撮影を依頼すると思います。この依頼の時点で、そのカットが「雰囲気重視」か「伝えること重視」かを、まず考えるようにしていきましょう。

僕も大まかにどんな路線のカットかを知りたいときは「雰囲気? キッチリ?」というような聞き方をすることが多いです。これで何がわかり、どのように撮り方が変わるのでしょう。

雰囲気重視の写真とは

「雰囲気重視」は、文字通り雰囲気の良い写真です。背景がボケていて主役が浮き上がって見えたり、前ボケがあることによって額縁効果が生まれていたり、アイテムの一部を切り取って印象的に見えたり、アイテムを人物が楽しそうに使っているイメージカットだったり、さまざまなものが考えられます。

トップ画像をはじめ、Webサイト全体の雰囲気を決定づけるような役割を担うことが多いのではないでしょうか。

ボケを活かしたアップの例
文具店の商品を撮影。棚全体、店全体ではなく、ボケを活かした商品のアップを撮影。
ボケを活かした立体感の例
単なる木を撮っていますが、ボケを活かして立体感を作ることで印象的に見えるようになります。

伝えること重視の写真とは

「伝えること重視」の場合は、そのような遊び心はさておき、破綻がないように撮ることが求められます。ボケは極力使わず、均一に、傾きもなく、四隅まできちんと撮れているかに注意を払います。しっかりと撮れていてもおもしろみはないかもしれません。

Webサイトにおいては、企業の営業所案内であったり、施設紹介であったり、全体像を伝える必要がある場合に使われることが多いのではないでしょうか。

広角レンズで撮影した例
カレー店の取材で外観を撮影。お店全体が入るように広角レンズを使用。
四隅までピシッとした例
アクセスページなどに使われそうな1枚。
広角レンズは使っていませんが、絞り込んで四隅までピシッとした描写は心掛けています。

雰囲気重視と伝えること重視の使い分け

「雰囲気重視」と「伝えること重視」の使い分け

作例を見比べるとわかりますが、明らかに写り方が違うと思います。仮に、トップページが「伝えること重視」になってしまったら、お堅い雰囲気になってしまいますよね…。
一方で施設案内などを「雰囲気重視」の写真にしてしまうと、まったく肝心の設備が伝わらず、実際に足を運ばない限りわからないというような不親切なものになってしまいます。

とても簡単なことですが、ざっくりと「良い写真をお願いします!」ではなく、「雰囲気重視」か「伝えること重視」かくらいは指示できるようにしておきたいものです。

「雰囲気重視」でとくに重要な「ボケ」と知っておきたいF値の関係

F値とボケの関係

「雰囲気重視」を撮る場合、ボケを効果的に使うと印象的な写真に仕上がります。写真に興味が薄いと、ボケ味にさほど注目することはないかもしれないですが、良い写真だなと感じたり、立体感や存在感のある写真だなと感じるときは、大抵が主役を引き立てるようにボケが使われているのです。

すでにご存知の方も多いかもしれませんが、ボケを決定する要素に触れておきます。レンズは光を取り込む量を数値化した「F値」というものがあり、この数字が小さければ小さいほど、一度に取り込める光の量が増えます。
光を取り込む量が多いとピントが合う前後の範囲「被写界深度」が浅くなり、ピントが合っていないところはボケて見え、背景や前景をぼかして描写することが可能になるのです。

F1.4で撮影した例
ボケが豊かになるF1.4で撮影。主役の植物のみが浮かび上がっています。
F11で撮影した例
ボケを得られないF11で撮影。背景までピントが合い、散漫な印象になってしまいました。

そして、レンズにはそれぞれ「開放F値」というものがあり、数値が小さければ小さいほど明るいレンズであり、ボケ味も豊かに楽しめるレンズということを示します。

いまここではボケ味についての側面から語っていますが、開放F値が小さくなればシャッタースピードを稼ぐことができるなど、ボケ味以外からの優位性ももちろんあります。そのくらい明るいレンズというのは写真を撮る人にとっては重要なこだわりポイント。

仮に、50mmF1.8と50mmF1.4のレンズがあったとします。僅かなスペック差ではあってもF1.4の方が明るいために高価になりますし、この開放F値を実現するためにレンズそのものが重く大きくなったりするのです。

一方で、さまざまな画角を使い分けることができるズームレンズはとても便利ですが、どんなに高価なレンズであっても開放F2.8程度の明るさです。たとえば標準ズームは24-70mmF2.8がプロ用の一般的なもの。キットズームと呼ばれるようなカメラとセットになっているものだと開放F4以下のものもあります。
人の眼の見えに近い50mmを中心に、広角から中望遠までの焦点距離をカバーしてくれて幅広い撮影に対応できますが、1万円程度で購入できる50mmF1.8の単焦点レンズにもボケの豊かさでは敵わないわけです。

Webサイトの制作担当者がフォトグラファーの機材に口出しはできないと思いますが、単焦点レンズとズームレンズとで撮れる写真は少し異なるということは覚えておいて損はないと思います。背景の選び方と距離感などで、ズームレンズであっても十分すぎるほどドラマチックな写真を撮る方もたくさんいらっしゃいます。あくまで目安として知っておき、くれぐれも単焦点レンズ原理主義のようにならないようにしましょう(笑)。

RF 50mmF1.8 STM
Canon Rシリーズ用のRF 50mmF1.8 STM。
リーズナブルな単焦点レンズ。
RF 24-105mmF4-7.1 IS STM
Canon Rシリーズ用のRF 24-105mmF4-7.1 IS STM。
便利な標準ズームですが、F値は暗いことがわかります。

ここでボケの豊かな写真で失敗しがちなことをいくつかお伝えします。
まず、レンズの開放F値でばかり撮影していると、被写界深度が浅いために肝心の主役にピントが来ていなかったり、ぼかしすぎて周辺状況がまったくわからないような写真になることもあります。

仮に初めて一眼カメラを手にしたような人だと、ボケが豊かな写真を撮ることが楽しくて楽しくて、開放F値付近を多用する傾向が出ることがあります。これは本当に仕方のないことで、僕も確実にボケが豊かな写真を撮りがちのタイプです。

でも、仕事で撮る場合は、写真全体の雰囲気を見るとともに、「写真から何を伝えたいか」という点も考えて、ボケすぎ、ボケなさすぎの境目を見極めていけるといいと思います。もちろんこれは撮り手がしっかり考えないといけないことですが、経験が浅い若手同士でチームを組んだり、社内スタッフで撮影をおこなうなどなった場合には気に掛けるようにしたいです。

ボケを大きくしすぎた例
背景は美しい川。しかしボケを大きくしすぎて肝心の水がよくわからない1枚に。

焦点距離の違いによる被写界深度の違い

ボケの量はレンズの焦点距離でも変動します。たとえばF2.8で撮影したとき、広角24mm、標準50mm、望遠135mmでは135mmの焦点距離で撮影したときが最も被写界深度が浅くなり、ボケが豊かになります。また、撮影する被写体までの距離でも変動します。マクロ域であればF5.6でも豊かなボケになりますが、数メートル離れた被写体ではかなりボケが少なくなります。

このような被写界深度の特長を把握するのは写真が趣味でない限り難しいですが、10メートル離れた人物をフワッと浮き上がるようにしたい、というように、レンズの焦点距離と開放F値に大きく依存するような撮影内容も存在するので、あらかじめフォトグラファーには具体的なイメージを伝えてあげるといいかもしれません。

つまり、スペックを超えた撮影というのはできないわけで、何か目指すものがあるのなら、伝えるのは失礼かな、と思わないで事前に共有するようにしましょう。プロはそれが撮れる機材を必ず用意して撮影に臨むはずです。

28mmの画角で撮影した例
28mmの画角で撮影。開放F値でもボケは少ないものの状況がわかる1枚になりました。
135mmの画角で撮影した例1
135mmの画角で撮影。ボケが豊かになり、同時に圧縮効果で背景が迫って見えます。
135mmの画角で撮影した例2
135mmで撮影。被写体まで10メートル以上あっても浮き上がって見えます。
これは50mmレンズなどでは撮れない1枚です。

フィックスした撮影には三脚が有効

さあようやく「伝えること重視」のお話です。とにかく破綻なく撮ることが求められるので、いまは機材の進化しており、必要ないと思われがちですが、室内や建物をしっかりと撮りたい場合、三脚を使って構図にこだわることは重要です。

とくに室内の場合、明るさが不足して高感度撮影になってしまうより、スローシャッター+三脚撮影をするほうが撮影結果は良好になります。また、破綻なく撮りたいわけですから、人の見切れなども注意したいところ。同じ構図でずっとカメラを構えることにもなるので、三脚を使った方が便利だと思います。

超広角レンズで撮影した例
制作中の天然木のデスクを撮影。超広角レンズで全体像を撮り、現像時に歪みなどを補正。

商品カット撮影の際に覚えておきたい「切り抜き」と「カクハン」

つづいて、商品カットの撮影についてのお話に移ります。たとえばECサイトで商品を見せるとき、商品だけを切り抜き、背景を白などに合成して使うことを「切り抜き」と言います。

一見すると「切り抜き」に近いものの、実際には商品を切り抜いておらず、背景紙などを使いシンプルに商品を見せるものを「カクハン」と言います。カクハンの中には、もっとボケや周辺状況を有効利用した「雰囲気重視」もあります。

商品の撮影をお願いするときは、だいたいこの3種のどれかくらいは指示ができるといいのではないでしょうか。

「切り抜き」の商品撮影のポイント

切り抜きの特徴

まず「切り抜き」ですが、これは商品のエッジが見づらくないような単色の背景に商品を置いて撮ればオーケーです。取材先などでもできなくはないですが、ライティングの構築などを考えると、できれば室内でブツ撮りの日を設けたり、フォトグラファーへ商品を送付して撮ってもらったり、というようなほうが精度は上がると思います。

数商品程度であれば、屋外のシンプル目の壁などを背景にしても撮れなくはないですが、あくまでも緊急避難。そして後からの切り抜き作業にも苦労したりするかもしれません。ちなみに僕はとある雑誌の撮影で、必ず人物の切り抜き写真を撮るというミッションがあり、白壁やグレーの壁を探し回るのみ毎回苦労しました。

切り抜かれることを前提とした撮り方
切り抜き用に撮影する場合は、ブロックキューブなどの上に商品を置くなど、
切り抜かれること前提の撮り方をすることが多い。

「切り抜き」で商品だけを画像で勝負するわけですから、商品がキチンと見えないといけません。陰影よりもフラット、絞り込んで商品の手前から奥までピントがしっかりと合っているほうが美しいと思います。ライティングは3灯ほど立てたいところ。
やはり、時間と予算が許すのならば、商品撮影だけの日があるといいかもしれません。

ただし、切り抜きは使い方次第でとても簡素に見えてしまいます。Webサイトの背景がカラフル&ビビッドカラーで、そこに商品が埋め込まれるような見え方ならいいですが、白い背景のWebサイトに切り抜きが延々と並ぶと、少しシュールに見えてくる可能性もあります。

商品をどのように撮るかは、デザイナーと相談してから決めるのが得策ではないでしょうか。雰囲気重視で撮っておいたものを後から切り抜くと、ぼやけた部位が出たり陰影があったり、良好な結果にならない可能性があります。

シンプルな「カクハン」の商品撮影のポイント

カクハンの特徴

「カクハン」+シンプルな背景紙の場合は、「切り抜き」よりも陰影を付けることができつつ、シンプルにまとまるという利点があります。

白バックで撮影をしたとしても、真っ白なWebサイト中で使えばわずかな色付きや濃淡はあり、「切り抜き」ではないことが伝わりますし、うっすらと影を付けるように撮影をすれば、雑貨などがオシャレに見えるはずです。

硬派にしたければ黒いペーパー、上質に見せたければ落ち着いた色のテクスチャーなどを背景紙にすることもできます。少し逆光気味にライティングをすることで、よりドラマチックな陰影を付けるような撮影もオススメです。

3灯ライティングで撮影した例
3灯ライティングで撮影をした商品。影は薄いながらも切り抜きとは異なる存在感。
1灯を逆光気味にライティングして撮影した例
1灯を逆光気味にライティング。陰影、立体感を作ることができます。
艶のある板の上で撮影した例
黒バック、黒いデコラという艶のある板の上で撮影。

「カクハン」+「雰囲気重視」は実は撮影がラク

「カクハン」でありつつ、その場のアイテム・雰囲気なども写し込んだ雰囲気重視の商品撮影は、それぞれの商品の見え方にバリエーションを出したいとき、新入荷商品の告知用イメージカットなどに使いやすい素材です。

想像しやすいように実例を挙げると、商品を販売しているカフェなどどのテーブルや窓辺などを使って商品撮影をしたり、海辺など屋外ロケをしたりするような場合がこれに該当します。
それぞれの商品をササッとその場のインスピレーションで撮るという即興力は試されますが、ライティングなどを構築する必要がないという利点もあります。あえて商品を全て異なるアングルや雰囲気で見せたい場合には有効。賑やかなWebサイトになると思います。

ライティングについては、それだけで深いコラムネタになるため割愛しますが、「雰囲気重視」には「自然光で」と意味が含まれることも往々にしてあります。

雰囲気を活かした撮影例
カフェの雰囲気を活かして商品撮影。場所のバリエーションを探すよう心掛けたいです。

まとめ

今回は空間と商品の2つの撮り方をとくにフィーチャーしましたが、たとえば人物であっても、イベントであっても、「雰囲気重視」なのか、シンプルな「カクハン」なのか、周辺状況とともに撮影する「伝えること重視」なのか、という合わせ技で伝えることはできると思います。雑誌などのように、敢えて人物を「切り抜き」で使うという手法も存在します。

つまり写真の大まかな種類はそんなに多いわけでなく、写真は印象的に撮るのか、カチッと撮るのか、切り抜きで撮るのか、くらいがわかっていれば、大きく指示を誤ることはないということです。これらはフォトグラファーとのコミュニケーションだけでなく、デザイナーとのコミュニケーションにも欠かせないことなので、Web制作に関わっているならば、使いこなせるようにしておいて損はないでしょう。

鈴木文彦

この記事を書いた人

鈴木文彦

2007年にフィルムカメラ専門誌「snap!」を創刊。以降、趣味の写真に関する仕事に従事する。刊行物に「中判カメラの教科書」「フィルムカメラの撮り方BOOK」(玄光社)など。現在は「FILM CAMERA LIFE」「レンズの時間」編集長。

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