大ヒットフィルター「ブラックミスト」の効果と活用方法
カメラのレンズに装着するフィルターは、撮影で適宜必要になる定番のカメラクセサリーですが、普段はさほど話題となることはありません。しかし、近年ひとつのフィルターが大注目されています。それはケンコーから発売されている「ブラックミスト」。欠品に次ぐ欠品、予約をして購入するほどの争奪戦です。今回は、ブラックミストの魅力である上品なソフト描写を検証すると共に、Webサイトにおける効果的な使い方などを考えていきたいと思います。
ブラックミストは普通にフィルターコーナーで購入できる
ブラックミストというネーミングは、どこかスタイリッシュで本格派の印象を受けますよね。高画質なムービーカメラのブラックマジック、映像作品にブラックなんちゃらというのがいくつもあるからかもしれません。しかしブラックミストはソフトフィルターの一種で、いわゆるカメラ店のフィルターコーナーに置かれている商品です。つまり、お持ちのレンズのフィルター径に合わせたものを購入すれば、簡単に使えるとてもリーズナブルかつイージーなアイテムです。
元々は映画やテレビなど映像の現場で使われているフィルターとして有名だったそう。多くのカメラが動画撮影機能を持ち、スチールとムービー撮影の両方を楽しむ人が増えたことも大ヒットの要因だったかもしれません。ブラックミストには、定番の「No.1」、その効果を半減させ、常用しやすくした「No.05」の2種があります。まず、両者の基本的な商品情報に触れておきます。
「ブラックミストNo.1」は発売からかなり経過した定番商品。微細な拡散材を光学ガラスに内包しており、ハイライト部とシャドウ部のコントラストを弱めます。
通常のソフトフィルターは写真全体が白っぽくなり、シーンを選ばないと過度な効果を感じてしまうこともありますが、ブラックミストは適度なソフト効果でとても使いやすいです。
作例
No.1の約半分のソフト効果で使いやすくなった新商品。逆光下でもふんわりとしすぎない、自己主張抑えめのシネマチック写真を撮ることができます。僕はこちらNo.05を予約購入しました。これまでのソフトフィルターと比較すると圧倒的に控えめな効果で使いやすく、またフィルム調の現像などとの相性も良いという印象を持ちました。ただ、SNSの投稿くらいの画像サイズだと、効果が伝わりづらい面もありますが、そのさりげなさこそが隠し味的で良かったのかもしれません。
作例
念のためフィルターを使っていない写真も紹介しておきます。ブラックミスト使用の2枚を見てからだと、コントラストが高く、黒の締まりもとても強く感じられてしまいます。つまり、一度ブラックミストを使い目が馴染んでしまうと、物足りなさを感じる体になってしまうのです。
デジカメは高画素化が進み、いまではフルサイズセンサーはもとより大判センサーもシェアを伸ばしています。画素数に至っては1億画素を超えるものすらでてきています。高画素なカメラは、巨大なビルボードや大型モニターによるサイネージ広告など、一部用途ではそのようなモンスタースペックも必要かもしれませんが、一般用途においてはそのようなシャープネスは過度な場合がほとんど。逆にブラックミストでコントラストを調整し、やわらかな印象にしていくというのがおもしろいですよね。
ソフトフィルターやソフトレンズとは違う!?
少し脱線をして、写真における「ソフト」について取り上げていきたいと思います。ブラックミスト以外にも、ソフトフィルターはもちろん存在します。有名なソフトフィルターは以下が挙げられます。
- 霧の中で撮影したかのようになる「フォギー」
- ハイライトのにじみが美しい「ソフトン」
- 中心部がくり抜かれたフィルターで、画面周辺部のみにソフト効果を適用する「センターイメージ」
僕自身、これらのフィルターを使いますし(事実、すべて私物です)、適材適所で力を発揮してくれますが、たしかに比較するとブラックミストの謙虚さというか控えめさが際立ちます。
ソフトンA
ソフトンで撮影。さほどソフト効果は強くないタイプを使用していますが、幻想的な雰囲気を見事に作ってくれます。ただし、ブラックミストと比較すると十分に強めのソフト効果だと感じます。
センターフォーカス
センターフォーカスで撮影。中央部はフィルター効果がなく、周辺部のみにソフト効果が適用されます。構図はどうしても中央に主役を配置する必要が出てきますが、とても個性的な描写をします。フィルターそのものの存在感も抜群です。レンズのF値を絞り込むことで効果を薄めることができます。
ソフトファンタジーII
「ソフトファンタジーII」で撮影。まさにファンタジー。光を強く滲ませてくれるため、幻想的な世界を作り出してくれます。ドリーミーな描写はかわいらしい被写体に向くため、ロケーションが良い場所にいくとわかっているときには、個人的には必ず持っていきます。作例を見てみると、まだ明るい時間帯で電球の発光はほぼ目立たないくらいなのに、ここまで滲んでいます。もう夢の中の風景のよう。
フィルターではなく、「ソフトフォーカスレンズ」でソフト描写を得るという方法もあります。主にポートレート用途として、中望遠単焦点のソフトフォーカスレンズというものが存在しており、その代表格であるキヤノンEFマウントの「EF 135mmF2.8 ソフトフォーカス」を紹介したいと思います。天下のキヤノン製です。そしてソフト効果オフ、ソフト弱、ソフト強の3段階で撮影できるというユニークなレンズで、ソフト効果をオフにしてもさほどパリッとは写らないレンズですが、変化球として所持しておくとおもしろいかもしれません。
ソフト効果オフで撮影。極めて普通の中望遠レンズの描写です。1987年発売というAF草創期のレンズのため、カリカリ描写ではありません。
ソフト効果弱で撮影。弱の場合、ピントの芯がうっすらと感じられますが、それでもブラックミストと比べるとふわふわな印象です。
ソフト効果強で撮影。ここまで滲むとピントがどこにきているのかが不明瞭になります。それなりに高価なソフトレンズを使ってもちょっと効果過剰。そんな感覚を抱いた方にはブラックミストが最適なのです。
ブラックミストの描写をWebサイトで活かす
では、ブラックミストの上品なソフト描写はWebサイトのどのようなシーンで生きてくるでしょうか。ブラックミストは画像を大きく使用しないとその効果は判別しづらく、また商品などをぼやけさせてしまってはいけません。やはりトップページのキャッチ画像を筆頭とした、イメージ画像でブラックミストを使うのが最も適しています。高コントラストの画像ではなく、やわらかな印象がイメージアップにつながるWebサイトであれば積極的に使ってみたいところです。とくにブラックミストNo.05は逆光時における適度なソフト効果が至高。逆光ならではの雰囲気をさらにドラマチックにしたい場合に力を発揮するはずです。
ブラックミストNo.05で撮影。夕陽を浴びるテラスのあるカフェ。たとえば真っ昼間に順光で撮影し、高コントラストなカフェ写真を掲載するよりは、あ、この時間帯にこの空間にいたいな、と思わせる効果は格段に上がるのではないでしょうか。
ブラックミストNo.05で撮影。食べ物の写真は逆光気味に撮ると雰囲気が良くなりますが、ブラックミストを使うことで、より一層「シズル感」を感じさせることができます。大人な雰囲気の飲食店などにとても有効な気がします。
ブラックミストNo.1で撮影。少し効果が強めのNo.1は、順光や光源がないようなシーンもソフトにしてくれます。この古い映画館を撮影したのは日暮れ後。カリカリとせず、レトロな雰囲気を演出してくれました。
ブラックミストNo.1で撮影。快晴+順光で高コントラストになりがちなところをソフトに描写してくれています。ハイライトとシャドウの両方のコントラストを弱めるため、メリハリを抑えてくれるのです。言い方を変えると「眠たく」なるのですが、イメージ画像であれば大きな特徴になってくれるでしょう。このような光の条件では、効果が強めのNo.1じゃないとソフト効果が感じられにくいことがあります。つまり、どちらも所有して光の向きと狙った効果を出すために使い分けるのがベストですね。
ブラックミストNo.05で撮影。イルミネーションがご覧の通りにじみますが、ピントの芯はしっかり。イルミネーションや夜の時間帯が特徴のお店やサービスにブラックミストはベストマッチです。
このように、「大人」「レトロ」「上質」「のどか」「物語」「ミッドナイト」など、エモーショナルなキーワードと密接に関わるイメージ戦略をしたいときに、ブラックミストの写真はとても有効なことがわかります。ただ、画質をあえてソフトにすることは、なかなかプロでは採ることができない撮影方法でもあります。この記事を見て、ブラックミストの描写が欲しいと感じたなら、発注時に素直にリクエストしてみるのが得策でしょう。
光を意識するという基本が楽しくなるフィルター
写真は光がないと写せません。写真を撮る場合には光を意識することはとても大切です。ブラックミストは光をうまく捉えてドラマチックかつエモーショナルなソフト描写で、そんな写真撮影の基本をもっと楽しいものにしてくれます。
ブラックミストを使うことで、光がどこにあり、どんな拡散をしているかを目の当たりにすることができるのです。多くの人がブラックミストを購入したのは、描写だけでなく、撮っていて楽しいからという根源的な理由もあったのかもしれません。
人の記憶にリンクする写真は、少しあやふやな方がいい
ここまで見てきたように、ブラックミストは絶妙なソフト効果が特徴です。それは「シネマチックな写真」と表現されることがあり、ブラックミストのパッケージにも「映画のワンシーンのように」と記されています。そう、人生、物語、ドラマなどを感じさせる写真はブラックミストを使った写真くらいあやふやなほうが、人の記憶にはリンクするのかもしれません。記憶とリンクするということは、人の眼に止まり、印象に残るということ。Webサイトに効果的に採り入れることで、多くの人に注目されるWebサイトとして認知されることでしょう。ブラックミストの効果と同じで、じわりじわり、かもしれませんが、シネマチックな表現を採り入れて「どこか心に残るWebサイト」を目指してみては。
ポートレート写真撮影に最適なレンズの焦点距離を考察する
この記事を書いた人
鈴木文彦
2007年にフィルムカメラ専門誌「snap!」を創刊。以降、趣味の写真に関する仕事に従事する。刊行物に「中判カメラの教科書」「フィルムカメラの撮り方BOOK」(玄光社)など。現在は「FILM CAMERA LIFE」「レンズの時間」編集長。
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