Webアクセシビリティとは?義務でなくても今から取り組むべき理由
「Webアクセシビリティ対応、しなければならないだろうか?」
この記事を読んでいるあなたは、ちょっとそんなことをお考えではないでしょうか。
Webアクセシビリティ対応は今のところ、法的な義務ではありません。しかし、対応は考えていくべきでしょう。このような概念が注目されてきている背景には、社会の変化があるからです。
多くの人に見てもらうために、Webサイトにも変化が求められています。その一つが、Webアクセシビリティなのです。
この記事では、Webアクセシビリティが令和3年の法改正によってどう位置付けられたのか、具体的にどんなことをやるのかについて解説しました。Webアクセシビリティをどう扱ったらいいのかイメージがついていなければ、ぜひ最後までお読みください。
アクセシビリティとは?
Webアクセシビリティの前に、「アクセシビリティ」という言葉があります。アクセシビリティ(Accesibility)とは、もともと「アクセスできる」「近づける」という意味の言葉です。ビジネスでは、どんな人でも商品やサービスを利用できることを指します。
例えば、以下はいずれもアクセシビリティが確保できていないケースです。
- 通路が狭くて車椅子が通れない
- 目が悪くてレストランのメニューが読めない
- ボタンが小さくて携帯電話が操作できない
これとは逆に、年齢や障がいの有無に関係なく誰にでもわかる・使える状態なら、アクセシビリティが確保されていると言えます。
Webアクセシビリティとは?
アクセシビリティの考え方をWebに適用したのが、「Webアクセシビリティ」です。年齢や障がいの有無、利用環境に関わらず、Webで提供される情報に誰でもアクセスし利用できることを指します。
ウェブアクセシビリティ導入ガイドブックによると、一般にウェブアクセシビリティが確保されているのは以下のような状態です。
- 目が見えなくても情報が伝わる・操作できること
- キーボードだけで操作できること
- 一部の色が区別できなくても情報が欠けないこと
- 音声コンテンツや動画コンテンツでは、音声が聞こえなくても何を話しているかわかること
例えば、スマートフォンにはスクリーンリーダー(読み上げ)や音声入力機能がついているほか、文字の色やサイズを変える機能もついています。これらはただの便利な機能ではなく、Webアクセシビリティの確保に貢献しているのです。
Webアクセシビリティは障がい者のためのものではない
アクセシビリティは障がい者のためのものと考えられがちですが、あくまで対象はすべての利用者です。健常者でも以下のような時には、一時的または状況的に障がいのある状態に陥ることがあります。
- 電車内で動画を見ようとしたらイヤホンがなかった
- 眼鏡を忘れてしまい文字が見えない
- 指を怪我してしまい、スマホで文字が打ちにくい
電車内で動画を見ようとしてイヤホンがなかったら、動画を見ることはできません。しかし字幕がついていたら、無音でも見ることができます。つまり、字幕によってアクセシビリティが確保されたということです。このようにWebアクセシビリティの向上は、障がいの有無に関係なくすべての利用者にとってメリットがあります。
Webアクセシビリティは義務化されるのか?
「企業のWebアクセシビリティへの対応が義務化される」
「障害者差別解消法の改正に伴い、遅くとも2024年6月4日までに対応が必要」
本記事を読んでいるあなたはこんな話を耳にされているかもしれません。
結論からいうと、Webアクセシビリティが義務化されるわけではありません。義務化されるのは「合理的な配慮」であり、これに伴う「環境の整備」としてWebアクセシビリティの確保への取り組みが求められます。
「合理的な配慮?」「環境の整備?」となっていると思うので、一つずつ見ていきましょう。
義務化されるのは合理的配慮
「Webアクセシビリティが義務化される」と言われる元になったのは、令和3年5月の「障害者差別解消法」の改正です。該当するのは「情報の収集、整理及び提供」の部分。新旧対照条文でどこが変わったのか見てみましょう。
改正後
当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
改正前
当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
社会的障壁の除去について、改正前は合理的な配慮をするように「努めなければならない(努力義務)」という言い方でした。これが改正後は「しなければならない(法的義務)」という強い表現に変わっています。
事業者においてこれまで努力義務だった合理的配慮が法的義務になったのは、今回の改正法の大きなポイントです。
ポイント1:法的義務
今までは「努力義務」だった合理的な配慮が、これからは「法的義務」になった。
合理的配慮とは何か?
今後、Webアクセシビリティに対する取り組みは一層求められていくでしょうが、義務化されるのは「合理的な配慮」であって、Webアクセシビリティそのものではありません。
では合理的な配慮とは何を指すのでしょうか。障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイトには、以下のように説明されています。
「合理的配慮」とは、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに負担が重すぎない範囲で対応することが求められるものです。
障害のある方から申し出があったら負担が重すぎない範囲で対応する。これが合理的配慮にあたり、令和3年の法改正で義務化されたことです。
ポイント2:合理的配慮
合理的配慮とは、障害のある方から「助けてほしい」と言われたら「無理のない範囲」で一時的に対応すること。
「合理的配慮」と「環境の整備」
では、合理的配慮の内容はどんなものなのでしょうか。障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針によると、合理的配慮は「環境の整備」の状況に応じて変わるとされています。
合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものである。また、その内容は、後述する「環境の整備」に係る状況や、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。
「合理的配慮」と「環境の整備」の関係は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針で具体的に説明されています。
オンラインでの申込手続が必要な場合に、手続を行うためのウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求める申出があった場合に、求めに応じて電話や電子メールでの対応を行う(合理的配慮の提供)とともに、以後、障害者がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行う(環境の整備)。
つまり障害者からの申し出に対して、その場では合理的配慮で対応しつつ、その後の障壁の除去を環境の整備として行います。「合理的配慮」は一時的な対応で、「環境の整備」は一時的な対応を受けて行う根本的な改善という位置付けになるでしょう。
ポイント3:環境の整備
環境の整備は、一時的な対応のあとで行う根本的な改善のこと。
Webアクセシビリティは「環境の整備」に含まれる
内閣府の情報アクセシビリティの法律上の位置づけによると、情報アクセシビリティの向上は「事前的改善措置」の一つとされています。Webアクセシビリティは、情報アクセシビリティの中に含まれると考えて良いでしょう。
平成27年2月に策定された障害者差別解消法に基づく基本方針においては、「障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等」を「事前的改善措置」の一つとして挙げている。
また「事前的改善措置」は「環境の整備」とほぼ同じ意味で使われており、これらについて「努めなければならない」と書かれています。
平成25年に成立した障害者差別解消法においては、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備、いわゆる「環境の整備」「事前的改善措置」に努めなければならないことが定められている。
以上のことから、Webアクセシビリティは「環境の整備」に含まれており、努力義務となります。
ポイント4:Webアクセシビリティは努力義務
環境の整備は努力義務。Webアクセシビリティは環境の整備に含まれているので、これも努力義務。
長くなったので、まとめます。
- 合理的配慮は法的義務になった
- 合理的配慮は一時的な対応で、環境の整備は根本的な対応
- 環境の整備は努力義務
- Webアクセシビリティの向上は環境の整備に含まれるので、これも努力義務
したがってWebアクセシビリティが義務化されるわけではなく、「環境の整備」の一つとして取り組みが求められるのです。
Webアクセシビリティの規格・ガイドライン
「Webアクセシビリティを確保するように!」と言われても、具体的にどうすればいいかわかりませんよね? Webアクセシビリティにはガイドラインが2つ用意されています。
一つは世界で標準的に使われているガイドラインのWCAG、もう一つはその一致規格である JIS規格です。一致規格なので、実質的に基準は1つということになります。
WCAG |
Web Content Accessibility Guidelinesの略称。 インターネットの各種規格を策定・勧告しているW3C(World Wide Web Consortium)という団体が作成しているガイドライン。 2023年時点での最新版はWCAG2.2。 ※日本語訳されていのはWCAG2.1が最新(2023年7月時点) |
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JIS規格 | 2016年にWCAG2.0とまったく同一内容の一致規格として改定された。JIS X 8341-3:2016は、2023年7月現在も最新の規格となっている。 |
一致規格ではありますが、JIS規格であるJIS X 8341-3:2016は「本文」しかありません。元になったWCAG2.0は「本文」「解説書」「達成方法集」の 3つの文書群で構成されています。したがって「達成基準」や「達成方法」の詳細については、WCAG2.0にあたる必要があります。
WCAGの達成基準
WCAGでは、3つの適合レベルが設定されています。「A(25項目)」を最低レベルとし、「AA(13項目)」「AAA(23項目)」と段階的に上がっていきます。
みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)では、公的機関に求めるレベルは「AA」です。なお、Webアクセシビリティに配慮されたサイトのギャラリー「Accessible Website Gallery」にて検索したところ、「AAA」に対応しているサイトは244件中0件でした(2023年7月現在)。
みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)には取組確認・評価表や公共機関の事例集、評価ツールなどがまとまっています。
達成基準「A」「AA」の具体例
「A」や「AA」の基準を達成するために、Webサイトでは具体的にどんなことに気をつければいいのでしょうか。JIS X 8341-3:2016 達成基準 早見表(レベルA & AA)からいくつか取り上げてご紹介します。
達成基準「A」の項目例
- 画像などの非テキストコンテンツに代替テキストを入れる
- すべてのコンテンツがタイミングに関係なくキーボードで操作できる
- 色で伝えている情報を他の視覚的な手段でも知覚できるようにする
- ウェブページには、主題又は目的を説明したタイトルをつける
- ウェブページのデフォルトの自然言語がどの言語であるか、プログラムにより解釈できる
達成基準「AA」の項目例
- すべてのライブの音声コンテンツに対してキャプションがついている
- テキスト及び文字画像に、少なくとも 4.5:1 のコントラスト比がある
- 特定のウェブページを見つける際に、複数の手段が利用できる
- 見出し及びラベルは、主題又は目的を説明している
- 入力エラーが出たとき、ユーザーに適切な入力方法を提示できる
以上のような項目について、それぞれの達成基準に適合しているかをひとつひとつ確認します。全体としては数百個のチェックリストを確認することになり、非常に時間がかかる作業です。改修対応も含めると2, 3ヶ月かかると想定して計画を立てましょう。
実施した結果やWebアクセシビリティポリシーの掲載方法などは、「Accessible Website Gallery」で事例がチェックできますので、参考にどうぞ。
まとめ
以上、Webアクセシビリティについて解説しました。
以前は街で英語が併記された看板や案内はほとんどありませんでした。今は英語だけでなく、韓国語や中国語まで併記されたものもめずらしくありません。これは多様化が意識されるようになったことが一因かと思います。
ウェブの世界でも同様の変化が起こってくるでしょう。現時点でWebアクセシビリティへの対応が義務化されたわけではありませんが、誰にでもアクセスできる情報へのニーズは今後も高まっていくと思われます。高齢化や外国人居住者の増加などを見ても、以前より多様化が進んでいるのは確実で、意識せざるをえません。
ギャラリーサイトがあることからも分かるとおり、すでに対応に動いている企業や公共機関も出てきています。できるだけ多くの人にアクセスしてもらえるサイトを目指し、少しずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
クーシーブログ編集部
1999年に設立したweb制作会社。「ラクスル」「SUUMO」「スタディサプリ」など様々なサービスの立ち上げを支援。10,000ページ以上の大規模サイトの制作・運用や、年間約600件以上のプロジェクトに従事。クーシーブログ編集部では、数々のプロジェクトを成功に導いたメンバーが、Web制作・Webサービスに関するノウハウやハウツーを発信中。
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テキスト:加藤久佳 デザイン:鈴木滉大