STP分析のやり方を3ステップで解説【事例付きWebブランディング実践ガイド】

本記事は、Webブランディングの成功の鍵を握る「コンセプト」を、ロジカルに導き出すためのマーケティング手法「STP分析」について、Web制作会社のクーシーが具体的なやり方を3つのステップでご紹介します。ユーザーから選ばれる存在になるために、自社のポジションを定めることの重要性を解説した別記事「Webブランディング入門ガイド:記憶と好みに働きかける前準備とは?」の実践編となるのが本記事です。
事業状況や課題に合わせて考えられるチェックリスト形式でSTP分析のポイントをご紹介します。競合との違いを生み出し、ユーザーの心に響くコンセプトを設計するための第一歩を、ここから踏み出しましょう。
STP分析から始めるWebブランディングとは?
記憶と選好にはたらきかけるブランディング
ブランディングの成功により得られる大きな効果は、第一想起の獲得と指名買いの促進です。第一想起とは真っ先に頭に思い浮かぶこと、指名買いとは他の選択肢との比較検討を省略して積極的にブランドを選んでもらえることです。要するに、記憶に残し、好んでもらうのがブランディングの基本です。ですから、そのためにターゲットユーザーの情緒にはたらきかけるデザインを施していくことがブランディングと呼ばれます。
一般的にはブランディングとはおしゃれなデザインを施すものと思われがちですが、それはあくまでブランディング施策の一部というわけです。
このように期待するべき効果(記憶と選好)とデザインポイントを整理すると、市場で独自のポジションを築くためのマーケティング手法「STP分析」がブランディング施策にも(意識して取り組まずとも)欠かせないことがわかるでしょう。
企業とユーザーが良好な関係を築き、共に利益を得る。そのための接点を戦略的に設計し、実践することこそ、ブランディングとマーケティングが交わる領域なのです。
STP分析から導く具体的なコンセプト
本格的なブランディングにおいて、最終的に定めるべきは独自性と一貫性のあるコンセプトにほかなりません。このコンセプトは、Webサイトの情報設計、コンテンツ、文章のトーン、デザインなど、あらゆる企業活動に通底するものです。
しかし、このコンセプトを漠然としたイメージだけで決めてしまうと、独りよがりな発想に陥り、ユーザーの心には響きません。
では、どうすれば自社の強みを活かし、かつユーザーに選ばれるコンセプトを練り上げられるのでしょうか。
そこで本記事では、STP分析を使い、強力なコンセプトを設計するためのチェックポイントを3つのステップで具体的にご紹介します。
※次に紹介する考え方の多くは、山口義宏氏の著書『ブランディングの教科書 ブランド戦略の理論と実践がこれ一冊でわかる。』で提唱されているポイントに基づいています。
ステップ①市場を読み解く「セグメンテーション」
STP分析のファーストステップとなるのがセグメンテーションです。セグメンテーション分析は、ターゲットユーザーを明確に定めることを目的に、市場や消費者を共通のニーズや性質を持つグループ(セグメント)に分類します。セグメントは、市場が成熟し、ユーザーニーズが多様化・複雑化する現代において独自の価値を高めるためにとても重要な発想です。
なぜかというと、あらゆる人に向けた製品やサービスを提供しようとすると、そのコンセプトは誰にとっても当たり障りのない「平均的」なものになりがちだからです。技術が広く普及し、提供できる価値が平均化してしまえば、結局は価格競争に陥ってしまいます。
だからこそ、自社が本当に価値を提供できるグループを見つけ出し、そのグループに響くメッセージを発信するために、セグメンテーションが不可欠なのです。
1-1. 消費者セグメンテーションのチェック項目
まずは、どのような切り口でユーザーを分類できるか見ていきましょう。以下にグループをまとめる代表的な4つの軸(地理、人口動態、心理、行動)に関わる問いかけの例を挙げます。
これらは、消費者セグメンテーションを捉える次の4つのポイントにそれぞれ該当します。
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地理:
国、地域、都市規模、気候、文化、行動範囲など。
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人口動態:
年齢、性別、家族構成、所得、職業、学歴、ライフステージなど。
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心理:
ライフスタイル、価値観、パーソナリティ、興味・関心、購買動機など。
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行動:
製品・サービスの使用頻度、購買経験、ロイヤルティの度合い、情報収集の仕方、Webサイトの利用状況など。
4つの観点からユーザー属性を分析することで、より具体的なグループ像を描き出すことができます。
1-2. マーケットセグメンテーションのチェック項目
もうひとつの視点が、市場全体の機会を捉えるマーケットセグメンテーションです。簡単に言えば、市場の可能性を柔軟に読み解く思考法です。代表的な発想方法を4つにまとめましたので、下記をご覧ください。
これら4つのチェック項目は、マーケットセグメンテーションを捉える次の4つのポイントにそれぞれ該当します。
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市場を細分化する
既存の大きな市場を、より小さな共通ニーズを持つ市場の集合体として捉え直し、ニッチなニーズに応える機会を探ります。
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プロセスに割り込む
ユーザーが製品やサービスを認知し、検討し、購買し、利用するまでのプロセスの中に、新たな価値を提供できるポイントを見つけ出します。
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市場を拡張する
既存の製品・サービスで、新たなユーザー層や利用シーンを開拓します。
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市場をリフレーミングする
市場の定義そのものや競争の軸を変えることで、自社が有利になる新しい市場の見方を提示します。
これらのセグメンテーションを通じて、自社がアプローチすべき有望な市場や顧客グループの仮説を立てることが、次のターゲティングのステップへとつながります。
ステップ②狙いを定める「ターゲティング」
セグメンテーションによって市場や消費者を分類したら、次のステップは「ターゲティング」です。ターゲティングとは、細分化されたセグメントの中から、自社が最も効果的かつ効率的にアプローチすべきユーザーグループを選び出し、マーケティング資源を集中させる対象を決定することです。すべてのセグメントを追いかけるのではなく、生活者とブランド双方の利益を最大化できる有望なターゲットを見極めることが重要です。
Webブランディングにおいては、このターゲット設定がWebサイトのコンテンツ、デザイン、そしてコミュニケーション戦略全体の方向性を決定づけます。
2-1. ROIの視点で評価し、費用対効果を高める
限られたリソースで最大の成果を上げるためには、ROI(Return on Investment:投資対効果)の観点からセグメントを評価し、ターゲットを選定する必要があります。
セグメンテーションやターゲティングはブランディングに大きく関わるポジショニングを定めるための条件や前提を探るものです。しかしながら、実はこれらSTP分析にも弱点があります。それが「自社都合」の分析に偏っている点です。
よくよく考えてみると、ビジネスの基本はあくまで「消費者」が「喜ぶ」価値を提供することにあります。そのため、自社の都合のよいように分析だけすればいいわけではないのは想像がつくことでしょう。
そこで重要なのが「インサイト」です。次に紹介するように、インサイトの視点でユーザーの心理や動機をマーケターが積極的に読み解くことで、ブランディング施策を定めるバランスを取ることが非常に重要なのです。
2-2. ユーザーの動機に結びつく視点を洞察する「インサイト」
ターゲットユーザーを深く理解するためにも、表面化しやすいユーザーニーズはもちろん、その奥にある「インサイト」を捉えることが不可欠です。とはいえ、その意識されていないインサイトとはなんなのでしょうか。
『ブランディングの教科書』では、インサイトを「動機に結びつく新たな視点」とし、それは単なるニーズ調査から発見されるものではなく、マーケティング担当者自身が洞察し、積極的に見抜くべきと述べています。
マーケティングにおいては特に「動機に結びつく」という点が重要です。インサイトを突くことでユーザーの具体的な行動(Webサイトへの訪問、問い合わせ、購買など)を喚起する。それが、市場で自社の価値を効果的に届けることにつながるからです。
インサイトの発見は容易ではありませんが、ターゲットユーザーの行動や言葉の裏にある本音を探り続けることで、強力なブランドメッセージやコンテンツ戦略のヒントが見えてくるはずです。
ステップ③独自の旗を立てる「ポジショニング」
セグメンテーションで市場を理解し、ターゲティングで狙うべき顧客を定めたら、次はいよいよ「ポジショニング」です。ポジショニングとは、ターゲットユーザーの心の中で、競合ブランドと比較して自社ブランドをどのように位置づけ、認識してもらうかを明確にすることです。
重要なのは、それは競合ブランドと比較して優位に立つことを目指すことではありません。そうではなく、生活者から見て「ほかに替えられない」独自の存在になること、そして比較されずに「指名買いし続けてもらえる状況」を創り出すポジションを取る、という点が重要です。つまり、ポジショニングとは「競争に勝つ」ことではなく、「競争をしないで賢く勝つ」ための戦略なのです。このような成果を目指すことこそが、STP分析によるマーケティング思考とブランディング戦略をつなぐポイントです。
※ 独自のブランドを確立している企業は、例えSTP分析をしていなくても、おのずとそのような市場における立ち位置を築いているケースが往々にしてあります。
余談ではありますが、ブランディングを検討する際には、自社はもちろん、他社の立ち位置をSTP分析の視点でぜひ読み解いてみてください。さまざまな発見があるはずです!
3-1. 効果的なポジショニングを確立するためのチェック項目
Webブランディングにおいて効果的なポジショニングを確立するためには、以下の問いに答えていくことが有効です。
3-2. ポジショニングの軸を決めるチェック項目
ポジショニングの軸を決める上で重要なポイントは3つあります。
これらのポイントを踏まえ、あなたのブランドはWeb上でどのような独自のポジションを築くことができるでしょうか?
そのポジションを最も効果的に伝えるためのWebサイトのコンセプトやメッセージは何でしょうか?
ぜひ、自社や競合他社の事例をこれらSTP分析のフレームワークを活用しながら考えてみてください!
Webブランディング事例に学ぶSTP分析の活用方法
ここからは、これまでに解説したSTP分析のフレームワークが、実際のWebブランディングでどのように活用されているのかを、具体的な成功事例をもとに読み解いていきましょう。
今回取り上げるのは、ECサイトでありながら、多くのファンに「メディア」として愛されている「北欧、暮らしの道具店」です。このブランディング事例を事業全体の観点とWebサイト独自ポイントの二段構えで分析することで、STP分析をいかにして強力なブランドコンセプトへと昇華させるかのヒントが見えてくるはずです。
北欧、暮らしの道具店:事業全体のポイント
まず、事業全体のマクロな視点から「北欧、暮らしの道具店」のSTPを分析してみましょう。
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S(セグメンテーション):市場をどう捉えたか?
「北欧、暮らしの道具店」が注目したのは、商品だけではなく、その背景にあるストーリーや世界観を重視し、「丁寧な暮らし」に価値を見出す消費者グループです。市場が成熟し、モノが溢れる中で、安さや便利さだけではない、新たな価値基準を持つセグメントを見出しました。
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T(ターゲティング):誰を狙ったか?
その中でメインターゲットとして定めたのが、ライフスタイルへの感度が高く、日々の生活に心地よさや自分らしさを求める20代後半〜40代の女性です。彼女たちが潜在的に抱える「フィットする暮らしを送りたい」というインサイト(動機に結びつく視点)に応えることを目指しました。
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P(ポジショニング):どんな旗を立てたのか?
そして確立したのが、単に商品を販売するECサイトではなく、「フィットする暮らし、つくろう。」をコンセプトに、ライフスタイルそのものを提案するブランドという独自のポジションです。競合がひしめくEC市場において、価格や品揃えといった軸で戦うのではなく、共感を呼ぶ世界観を演出し、競争の外に出る戦略をとったのです。
北欧、暮らしの道具店:Webサイト独自のポイント
しかし、彼らの本当の巧みさは、この事業全体のポジショニングを、主戦場であるWebサイトでいかに具現化しているかにあります。まさに、Webブランディングの真髄とも言えるポイントを、ミクロなSTP分析で見ていきましょう。
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S(セグメンテーション):Web上のユーザーをどう捉えたか?
Webサイトを訪れるユーザーを、単なる「買い物客」としてではなく、「ライフスタイル情報を探す読者」「心地よいコンテンツを楽しむ視聴者」として括っています。購買意欲が明確な層だけでなく、「何かいいものないかな」とWeb上を回遊する潜在層も重要なグループとして捉えているはずです。
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T(ターゲティング):Web上で誰を狙ったか?
狙ったのは「メディアのファン」となってもらうことでしょう。すぐに商品を買ってもらうことよりも、まずはサイト自体を好きになってもらい、何度も訪れてくれる読者・視聴者になってもらうことを狙ったメディアとなっています。
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P(ポジショニング):Web上でどんな旗を立てたか?
Webサイトを売り場ではなく、「毎日訪れたくなる、居心地のいいWebメディア」としてポジショニングしています。この独自のポジションは、サイトのあらゆる設計に反映されています。例えば、サイトの中心にあるのは商品リストではなく、特集記事や動画、エッセイといった「読みもの」です。ユーザーはまずこれらのコンテンツに惹きつけられ、商品の背景にあるストーリーや作り手の想い、スタッフによる使用感レビューなどを通じて、その世界観に深く没入していきます。
これらポイントにより、ブランドへの共感と信頼が十分に高まった結果として、「このブランドが勧めるものなら」「この世界観を自分の暮らしにも取り入れたい」という自然な動機から購買に至るのです。これは、ユーザーに「売り込まれている」と感じさせずに、「ファンとして応援したい」と思わせる、計算された体験設計と言えるでしょう。
ここから学べるポイント
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「売り場」ではなく「メディア」を作ること
「北欧、暮らしの道具店」が証明したのは、ECサイトが単なる売り場ではなく、ファンを育てる「メディア」として機能した時、初めて価格競争から脱却できるという戦略です。
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ユーザーの「買いたい」ではなく「知りたい」に応えること
ユーザーの知的好奇心や楽しみたいという気持ちに応える質の高いコンテンツこそが、結果的に最高の販売促進となることを見事に体現しています。
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「ファン化」の体験を設計すること
「共感→信頼→購買」という情緒的なプロセスをWebサイト上で丁寧に設計することこそが、Webブランディングにより指名買いをもたらす核心です。
分析を「価値」に変え、選ばれるブランドへ
本記事では、Webブランディングの基盤となるSTP分析のやり方を3つのステップで解説し、「北欧、暮らしの道具店」の事例を通じて、その実践的な活用法を見てきました。
市場を読み解き(Segmentation)、価値を届けるべき相手を見定め(Targeting)、独自のポジションを築く(Positioning)。そして、その戦略をWebサイトという「メディア」を通じて体験へと昇華させること。これが、ユーザーから選ばれるブランドになるための王道です。
しかし、最も重要で、そして最も難しいのは、この分析から導き出したコンセプトを、Webサイトのデザイン、コンテンツ、UIUXといった「カタチ」へと魅力的に吹き込むプロセスにほかなりません。優れた設計図があっても、それを最高の形で実現する技術と経験がなければ、ブランドの価値はユーザーに届かないのです。
私たちクーシーは、創業から25年以上にわたり、まさにその「最高の体験と成果を実現する」プロフェッショナルとして、多種多様な企業のWeb戦略に併走してきました。私たちは単にWebサイトを作るだけではありません。企業の想いとユーザーの期待を深く捉え、両者にとって価値あるコミュニケーションを生み出す架け橋となることを目指しています。
クーシーがこれまでに手掛けてきたWebサイト制作・運用の具体的な実績については、ぜひ弊社の制作実績ページをご覧ください。
また、「分析はしてみたが、自社のWebサイトにどう落とし込めばいいか分からない」といったWebブランディングに関するお悩みは、無料でご相談を承っております。まずはお気軽に、下記のお問い合わせフォームよりご連絡ください。みなさまからのご連絡を心よりお待ちしております。
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テキスト:青山 俊之 デザイン:ピョータント